2015年6月30日火曜日

手は大切に

私たち鍼灸師に限らず技術職の人たちは「手」を大切にしなければならない。








私が鍼灸学校で学んでいた時も、確か担任の先生が「手を痛めるような事はしちゃだめですよ!弦楽器とか土いじりとか機械いじりとか」と言っていた。恐らく手の皮が厚くなって指頭感覚が鈍くなることでいい治療ができなくなることを危惧していたのだろう。


しかし、手を大切にするということは大事に保護することなのだろうか?日焼け止め塗って手袋して大事にしまっておく。私はちょっと違う気がする。



小林一夫氏。伝説の研磨職人。触っただけで1000分の1ミリの凹凸を見極められる世界に誇れる研磨技術を持った職人さんです。職人さんの手は長年の仕事でゴツゴツとして手の皮も厚くなっているだろう。それなのに繊細な変化を見極められるのはなぜか。やはり大切なのは「感覚」を磨くということだと思う。日常の家事や雑務で手をしっかり使う、そこから色々な感覚を磨いていくことが手を大切にすることだと思う。



うちの治療院は田舎にあるので雑草がよく生えます。時間を見つけてはよく草抜きをするのですが、草の抜け方で土の中の水分量や根の張り方をイメージしたり、根が切れないような絶妙な力加減や力のベクトルを模索しながら草抜きをしています。自然を相手にする、自然との対話という点で東洋医学にも通じるところがあると勝手に思い込んでやってます。

それを見ている副院長は「除草剤使ったら?」

私「それだと熱が出た時に解熱剤を飲むのと一緒だ」

などとよくわからないやり取りが時々起こります。




鍼灸師という仕事は患者さんに触れる仕事。やはり柔らくて温かい手が理想です。かつての名人と呼ばれた鍼灸師は高齢になっても赤子のように柔らかい手であったそうです。



2015年6月29日月曜日

「師と修行」

先日、経絡治療学会うたづ部会では徳島県より大上勝行先生をお迎えして特別講演をしていただきました。


テーマは「師と修行」。





先生自身の修行時代のお話や鍼灸医術の伝統を受け継ぐとはどういうことかなど、普段の勉強会ではあまり聞けないような貴重なお話をしていただきました。

今でも徒弟制度が残っている業界というものは、そこに後世に残し引き継いでいかなければならない歴史や伝統があるからです。鍼灸という世界も3000年前から先人たちがずっと伝えてきてくれたからこそ現代にも残っているわけです。






師と仰げる人に出会い、言葉や文字ではなく手から手へ鍼灸医術は伝えられてきました。


今まさにそれを体現されている大上先生。



今回の特別講演に参加してくれた受講生の皆さんにとって貴重な出会いとなったと思います。大上先生ご多忙のところ本当にありがとうございました。



「子日、毋欲速、毋見小利、欲速則不達、見小利則大事不成。」










2015年6月13日土曜日

張子の虎

誕生日に副院長からプレゼントをもらいました。


三豊市の伝統的な工芸品「張子虎」。三豊市には香川県の伝統工芸士が3人います。一度だけ製作の現場を見学したことがあるのですが張子の材料は和紙がいいそうです。昔の和綴じの本をバラバラにして糊で何枚も重ねて強度をだしていきます。

副院長曰く「動きがあって黄色や赤色のものは魔除けになるから・・・」

このプレゼントのチョイスにシビレます。おそらく「張子の虎」にならないようにというメタファーでしょうか。

2015年6月5日金曜日

おきゅうあつい

落語の「まんじゅうこわい」みたいなタイトルですが、今日はお灸の熱さについて。

大西灸堂のお灸は八分灸(はちぶきゅう)といって米粒大のお灸が八分目まで燃えたところで火を消していくお灸です。時々「もっと熱いお灸をしてくれ」とか「熱くないお灸で効くのかね」と言う江戸っ子気質の方もおられます。でもみんな熱いのや痛いのっていやですよね。

江戸時代のお灸の本「名家灸選」(文化10年・1813年)の序文には「貴権豪富或は熱さを悪み或は疼きを恐れ、惟だ甘薬、補湯を安しとす・・・」とあり、江戸時代の人もやっぱり熱いのや痛いのは嫌で甘いお薬を好んでいたわけです(特に裕福な人たちは)。




お灸が熱い方が効くのであれば、鍼も痛いほうが効くということでしょうか。いやいや、そうではありません。私たち鍼灸師は日々修練し痛くない鍼を目指し、鍼メーカーさんも弛まぬ企業努力で痛くない素晴らしい鍼を開発してくれています。


お灸はもぐさに火を付ける。よもぎの葉から作られるもぐさはずっと昔から変わっていません。お灸も熱くなく、温かく心地よいお灸で効果を出す努力をすべきではないでしょうか。

もっとも「熱い」「痛い」ということを議論していては、ただの刺激療法の域は超えませんが。東洋医学は「気」の医学。目には見えないけれど確かに存在する世界だと思います。空気は目には見えないけれど木々が揺れるのを見ると、そこに空気の動きが感じられるはず。



一本の鍼、一粒のお灸、一瞬たりとも気が抜けません。


「おきゅうあつい」の落語で笑える日が来るように精進いたします。